
| 伝説という奴は、なかなかむずかしい。何かが起きても誰も見ていなければ伝説にはならないし、みんなが見ていても誰も熱っぽく語り継がなければ伝説にはならない。いや、むしろ目撃者は少ない方がいいのだ。スゴかったんだぜ……という言葉がリアリティを持つためには、余計な口を挟む奴はいないに限る。と、そこでアグファのリバーサル・フィルムだ。 まだプロはフジを使わなかった時代、デフォルトはコダクロームないしエクタクロームだった。印刷のシステムも色補正のゼラチン・フィルターも、そのふたつを前提に組み立てられていた。が、僕が横浜を撮るために使っていたのはアグファだった。 アグファはシャドー部がセピアにカブるのだ。返還される前の本牧の米軍住宅や中華街の裏通りには、こんなに似合うフィルムはなかった。やたら粒子が粗いのも、レンズを汚してソフトフォーカスを気取ればむしろ印象派風でよろしい。おまけに堀内カラーでも東洋現像所でも現像できず、近代カラーという高田馬場にあるマイナーな会社でないと現像できないというのも洒落ていた。……そう、アグファのリバーサル、すごかったんだぜ……。 |